歴戦の萌え声生主は、なぜ業が深いのか?

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オナニーマスター黒沢』という漫画をご存知でしょうか?

キャッチーなタイトルに恥じない物語運びで、最後まで目を離さずにはいられない、といった魅力をもつ漫画です。

粗筋はほかに譲りましょう。今は、オタク描写のみに焦点を絞ります。

 

主人公の黒沢くんには、腐れ縁の親友的ポジションの長岡くんがいます(と言っても、そこまで深い付き合いはありませんが)。アフロで、お人好しで、オタクです。

さて。

詳細は伏せますが、のちの展開上、長岡くんがオタクであり、いわゆるスクールカースト下位の人間なのだと読者に認識させる必要があります。主人公の黒沢くんから見た人物描写の中で、長岡くんのそういった評価がなされます。読者も自然とそれを受け入れる。

 

…はずでした。この漫画が描かれた当時なら。

どこらへんの時代だったかは、要所で仕込まれるオタクカルチャーのパロディからも察せられるでしょう。ハレ晴レユカイとか、そのあたりです。

今や、アニメ・漫画好きというだけではスクールカースト下位は名乗れません。JKが匿名掲示板の流行語を常用する時代です。アングラ・サブカルが、日向に引き摺り出されつつあります。今は寄り道しませんが、vtuberの誕生はこのためです。暗部を極限までさらすこと。それが、vtuberの今果たしている社会的役割です。

 

今の価値観からすれば、お人好しで、誰とでも気さくにコミュニケートできる長岡くんは、いくらオタクだろうとスクールカースト下位と認識しづらい。

少し前までは、リア充ネト充・キョロ充なんて区分けがされてましたが、今や陽キャ陰キャという潔いまでの区分けが主流です。オタク趣味がどうとかはもはや問題ではなく、まあ、ざっくり言えば性格の問題。残酷です。血も涙もありません。

 

で。

歴戦の萌え声生主は、なぜ業が深いか?

答えは簡単です。時代が違うから。

 

国民的アニメの主役を張るような大物声優が、子どもの頃、その変わった声のせいでいじめられたというエピソードを聞いたことはありませんか?

そこまでいくと流石に遡りすぎですが、かつての萌え声生主も似た状況に置かれていたのではないでしょうか。

オタクに人権はなく、萌え声といっても今風の耳障りの良いものというより古典的なもので、キンキンしてるとか、ぶりっ子してるとか、うるさいとか、負の側面ばかり取り上げられがちな時代。それらを必死で跳ね返しながら、生業にできるアテがなくとも、精力を注ぐ。匿名の不特定多数を相手に。かつて、萌え声は十字架でした。

そうやって、道無き道を突き進んできたからこそ、彼女たちは業が深いのだと、私は勝手に思っています。