『シュガーホリック』の話

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雑記の予定でしたが、それなりの分量になったのでそのまま一つの記事とします。

先日公開された周防パトラの新譜(ところで、新曲と新譜ってどう使い分ければいいのかしら)『シュガーホリック』。

もう長いこと彼女の曲が琴線に触れなくなっていたのですが、久しぶりに気になったので。

まず映像が素敵。今までは冒頭の30秒でピンと来なくて素通りなことが多かったのですが(ごめんなさい!飽きっぽいもので…)、今回はそういうことを考える暇もなく、とにかく映像を見たくて最後まで聴きました。ドット絵好きなんです。ドット職人の方も、それをああいう形に仕上げた本人も、良い仕事してらっしゃる。

で、中身についても心に引っかかるものがあった。まとまったことは言えないんですが、とりあえず思いつくままに羅列してみます。

まず、「シュガー」や「甘さ」というテーマ。これは周防パトラの曲にはお馴染みですね。そもそもの声がいわゆる甘ったるい系統なのもありますし、源流を汲んで、というのもある。作曲Yunomi・イラストきあととで三種の神器というか、三位一体というか、一緒の仕事を長らくやってきた。きあと氏については「萌えと砂糖のオーバードーズ」なんてキャッチフレーズもあるようです。急に今回の曲と近づきましたね。

ただの推測ですが、このキャッチフレーズはおそらく頭に入っていたと思います。1番の後、フルなら2番の後に来るであろうCメロで「Sugar Holic」を「甘い甘い過剰摂取」と歌う場面がありますが、「Holic」を日本語訳したときの一般的なファーストチョイスは「中毒」であり、一本道で「過剰摂取」とはなりません。「過剰摂取」と訳されやすいのは「overdose」のほう。

オーバードーズはご存知かとは思いますが、要は服み過ぎですね。適量なら普通に処方される薬を、大量に一気に服むことで自殺を図るあれ。よく聞く割には成功率が低いので、ご注意を。失敗しやすいだけでなく、後遺症の可能性も高い。ちなみに元々のシュガーホリックは直訳すると砂糖中毒、甘いものを四六時中食べないとイライラしてたまらない、的なやつですね。ワーカホリック(仕事中毒)なら日本でも聞き馴染みがあるかと。

もちろん、歌詞として曲に乗せる際には色んな要素が絡むので一概には言えませんが、少なくとも「Holic≒Overdose≒過剰摂取」の図式は念頭にあったと思われます。

次に気になった部分は、曲調とは裏腹なネガティヴ感。軸になるのは「バカにされた世界で」。タイトルでもある「シュガーホリック」を除けば、最も頻繁に登場するフレーズではないでしょうか。「バカにされた」というのは、かなり強いネガティヴワードです。自分の中に強い理由がなければ、使うのを躊躇ってしまうほどには。ダークだったりニヒルだったりする雰囲気がウリのクリエイターならともかく、半ばアイドルソングの明るい自作曲には、普通採用しません。そもそもシュガーホリック自体がポジティブな言葉ではないというのもありますが、一旦先に進みましょう。

甘すぎ愛のシュガーホリック

バカにされた世界で

迷っても間違っていても

愛したくてたまんないよ

自ら「甘すぎ」と言ってるわけで、たぶん「間違って」いるだろうとは分かっている。

誰かが壊した

ラクタのおもちゃ

それも私には

大切なものなの

ここもなかなか凄いですね。「誰かにとっては見向きもしないものでも、自分にとっては大事なもの」なら良くある話です。

そうではなくて、「誰かが」わざわざ壊すくらいには忌み嫌っていた結果「ガラクタのおもちゃ」になったものも「私には大切なもの」なんだそう。…なんというか、背筋が冷えますね。

すぐ泣くしすぐ怒るし

デビルガールなの

そんなの知ってるよ

大丈夫だよ

ここは笑うべきかどうか、判断に困る。デビルガールはそのまま受け取れば周防パトラでしょうから、周防さんのファンならこう言ってくれるだろう(あるいは実際そう言っている)というのを、本人が言ってしまう。ある意味ではここも怖い。

あと、歌詞だけでなく映像にもネガティヴな要素が見てとれます。Cメロの部分ですね。一応言うと『ハートサーモグラフィー』に似て、Yunomiの流れを汲んだ和テイストのパート。

で、映像はゲーム画面風。左下の周防パトラがゲーム配信している様子。ポケモンとかの戦闘場面的なものでしょうか。プレイヤー側に犬≒わんちゃん(周防パトラのファン総称)、相手側に悪魔要素を強めた周防パトラがいます。犬がプリン、コーラ、フィギュア、ゲーム機を悪魔周防に与えますが、全て✖︎。犬はバタンキュー。

『蒼い蝶』もそうでしたが、ネガティヴな要素を敢えて入れているのは、個人的に興味深い。少なくとも、インスタントで耳障りの良い音楽を目指しただけの曲ではないことになります。今回の曲なら、vtuber界隈のいわゆる「やさしい世界」への複雑な心情なんかを感じ取っても、面白いかもしれません。能天気に良いとは言えないけれど、それでもその甘さを肯定したい気持ち。

 

皆さまも、この機会に思い巡らしてみてはいかがでしょうか。