蒼月エリの歌は、公開オナニーである

と、思っていました。

 

先日公開された『ロキ』を聴くまでは。

これは、考えを改める必要があるかもしれません。

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…ひとまず、話のふりだしに戻りましょう。わたしたちは今、vtuberと「若さ」について、ぼんやり考えを巡らしているところでした。

 

蒼月エリもまた、そのやや危なっかしい「若さ」を魅力のひとつとして孕んだvtuberです。

 

「コーヒー豆」事件をご記憶の方なら、わざわざ指摘されるまでもないことかもしれません。その後見せた痛ましいほどの反省具合も含めて、視聴者が彼女の為人に触れる良いきっかけになったと思います。まあしかし、これは若さというより、彼女のなかの旧時代的価値観に拠るところが大きかったのかもしれません。個人的には、こういう危うさをツイッターで発揮したら面白いと思うのですが(「マジ射精受精妊娠出産」的フレーズなど、冗談とかではなく、とても言語感覚に優れていると思っています)、今の立場を鑑みてそんな危険を冒す必要がないので封印、という判断もまた妥当かと。

 

さて、そろそろ今日の本題に移るとしましょう。

もちろん、歌手活動や配信業は、須らく自己満足・自己承認欲求に関わります。蒼月エリに限った話ではありません。なんならこの業態に限った話でもなく、全ての人の生き様と根深く結びついています。

蒼月エリの歌について殊更こう書くのは、そのアンバランスさが目を引くからです。ふつう、あそこまで技術的に卓越すれば、自己満足では収まらなくなり、もっと普遍的な価値をもたせたい、多くの人の心を奪えるようになりたい…というステップアップを踏むのが常。なのに、彼女の歌は有り余る才能をほぼ自己満足に費やしています。いわば、超絶技巧の公開自慰なのです(それはそれで、刺さる人がいるかもしれませんが…)。

 

 

今回の『ロキ』は、堰代ミコとのデュエットソングになりました。

vtuberの『ロキ』というと、天神子兎音や織田信姫が真っ先に思い浮かびます。特に天神子兎音は、その当時としてはかなり先進的だった3D体のMVが印象的。

今やすっかり田中ヒメ&鈴木ヒナの代名詞になりつつありますが…。人気ボカロ曲ということで、一通りのメンツが歌ってはいますね。デュエットで出しているところもあるようです。

個人的なことを言うと、今回初めて最後まで聴くことができました。歌詞がコテコテというか、拗らせ気味というか、いつも1番でお腹いっぱい。「あ〜食べたいな〜」と思って食べる最初の一口はめちゃくちゃ美味しいんですけどね、食べ切る前に飽きるインスタントラーメンしょうゆ味現象と勝手に命名しております。

 

で。

問題は、蒼月エリにとって今回の『ロキ』が、なぜ、どのような変化をもたらしたのか?

先ほど申し上げたように、堰代ミコとのデュエット。その点に尽きます。

 

ハニストメンバーでのグループ曲はすでに複数ありますが、そちらで浮いてるという話は以前したので、割愛させていただきます。

デュエット自体も、すでにやっています。周防パトラとマクロスの歌『ライオン』を(念のため調べたら消えていますね。アレンジが効かずにYouTubeからNGでも出てたんでしょうか)。ただこの周防パトラとのデュエットというのがなかなかに厄介で…。

周防パトラの声をソシャゲのリセマラサイト風に例えるなら、次のようになります。

 

「周防パトラの声:Cランク

とにかくピーキー。これがあると特定のイベントがぐっと楽になるが、いかんせん汎用性に乏しいので、リセマラでの優先順位は低め。やり込みには必須だが、最初に狙うべきではないのでこのランキングになった。」

 

だいたいのニュアンスは伝わったでしょうか。基本的に、電波ソング一点突破で、合う合わないがハッキリした声です。デュエットも相手を選びます。実際、同じ相手とのユニットを音楽活動の拠点の1つに据えて、長年やってきました。

そういうわけでパトエリのデュエットは、一緒に歌ってるようで一緒に歌ってない、なんとも奇妙な感じに終始しました。

 

翻って今回のミコエリデュエット。

ハニスト内で比較的、蒼月エリと歌唱力が近く、かつメタモンが如き天性の役者魂をもつ堰代ミコだからこそ、蒼月エリのデュエットが事実上初めて成立したのです。

 

冒頭と中盤の計二度挿入される蒼月エリの嬌声シャウトをお聴きください。吹っ切れているでしょう?そうでなくては、特にこの曲は務まりません。中途半端な距離感では逆に恥ずかしくなります。ガッツリ入り込む必要がある。それに応えるほど世界に没入できるのは、ハニスト内にただ一人、堰代ミコを措いて他におりません。

 

といっても、そこは上手の蒼月エリ、きちんと堰代ミコをリードしています。歌唱力の差からいって、堰代ミコ側に小細工をかます余裕はありません。七色の声は封印、ほぼ地声のトーンです。全力でぶつからなければ、このデュエットは成立しなかったでしょう。

 

 

 

今回の『ロキ』は、決してただの公開オナニーなどではありません。互いに互いを思いやった、二人きりのイチャラブ公開セックスです。

自己満足から、相互満足へ。一人称から、二人称へ。

いつか、素知らぬふりの群衆をも己の世界に引きずり込むことができたなら、そのときこそ蒼月エリは、歌手として1つの到達点を迎えることでしょう。

 

 

彼女には、それを為すだけの「若さ」があります。